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罪深き義母のよがり啼き 6

 その一週間後。幸作はお礼にと秀美を食事に誘って来た。
 秀美はボスパートに経緯を聞いてしまったから断ることが出来なかった。
 招待されたのはどうしてか焼肉屋。
 不器用はすべてにおいてらしい。幸作は肉を焼き、ひたすら食べた。
 「食べて」と言われる以外、会話らしい会話が無い食事だ。楽しくはない。それでも、目の前でモリモリと食べる男性を生ビールを飲みながら眺めるのは気分がいい。どうせ家に帰っても一人の食事。秀美は二度目の時にも断らなかった。
 光輝を紹介されたのは三度目の時だった。 光輝は探るような目つきを秀美に終始向けた。
 その光輝の前で幸作は言った。
「結婚して欲しい。一緒に暮らしたい」
 秀美は面食らった。
 まだ出逢って日が浅いからではない。子供がいるからでもない。
 結婚なんて出来る身分ではないからだ。親に勘当されているから身寄りはない。なにより、風俗にいたとは何があっても言えない。隠したまま一緒にいるのは不誠実だ。
 秀美は無理です。結婚は考えられません、と告げようとしたが、息子がいる手前、すぐに断るのも申し訳ない。
 光輝が自分のせいで、と思うかと考えたからだ。
 その時はうやむやに終わらせたが、後日はっきりと断った。

 されど、幸作も引かない。
「なにも訊かない。秀美ちゃんみたいな素敵な人が一人でいるなんて理由があるのは解かっている。でも、だから、そばにいてよ。秀美ちゃんがいい。一緒になりたい。ずっと一緒にいたいんだよ」
 気が小さく不器用と言われている男がそれだけは二年間、秀美に言い続けた。
 そんな時間の流れの中で、幸作に辞令が出た。
 経営陣の勢力配分が変わって本社のマーケティング部に戻れることになったのだ。
 幸作は秀美に言った。
「秀美ちゃんのおかげだよ。秀美ちゃんがいてくれたから、俺、頑張れた。もっと俺を幸せにして欲しい。俺のそばでして欲しい」
 この頃には秀美も幸作に幸せになって欲しいと思っていた。不器用なのは手先だけで、人を良く見ているし、博識だ。でも決して鼻にかけることもなく努力家。秀美は惹かれていた。
 最も響いたのは「幸せにして欲しい」だ。
 こんな女でも誰かを幸せに出来たらいい。幸せにしたい。
「はい。私で良ければ、全力を尽くします」
 秀美は幸作と結婚することに決めた。
 けれども、高校三年生という年頃の男の子とは早々上手くいかない。
 学校へ持って行くお弁当は要らないと言われ、休日も塾か部屋にこもるかで会話が無かった。 二人きりの食事時など光輝は常に携帯を手にして、耳栓代わりのようにイヤホンを耳に挿している始末だ。
 三か月が過ぎた頃だった。相変わらず働いていたパート先に高校から電話があった。
 光輝が体育の授業のサッカーで骨折をしたと言う旨の連絡だ。
 秀美はパート先に断って、慌てて教えられた病院に迎えに行った。
 包帯を巻かれて腕を吊っている光輝は、秀美を見るなり目を潤ませて安心しきったような顔をした。
 そして言った。
「ありがとう。義母さん」
 秀美は嬉しかった。
 母親なんておこがましい。共に暮らす家族として認められたことで十分だった。
 秀美は張り切って光輝の身の回りの世話をした。
 利き手ではない左手で食べられる食事を作り、着替えも手伝った。
 入浴の介助もその一つだった。
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