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罪深き義母のよがり啼き 32

「あ、あの……ごめんなさい。突然」
「いいよ。どうしたの?……今どこなの?」
「今……省吾君のアルバイト先の駅。会えるかなって思って、来てみたんだけど」
「あ……だったらさ……」
 省吾は少し離れた駅に誘って来た。
「そこだったら、三十分ぐらいで行けるから……秀美さんの時間が平気ならだけど」
 うん。分かった、と秀美は応えて携帯を鞄に入れた。

 四十分後、ぼんやりと本屋を眺める秀美の横に省吾が立った。
「行こう」
 秀美の顔をまともに見ることなく、すぐに歩き始める。早足だ。
「あっ」
 秀美は慌てて後を追う。
 駅を出て、当てがあるように歩く省吾の後を秀美は追いかけるように歩いた。
「あ、あの省吾君」
 五分ほど歩いて、どこに行くのかとだけ訊きたくて問いかけても省吾は振り返らない。
 急に不安になる。
 怒っている?それとも、並んで歩きたくない?
 足を止めようか。帰ると言おうかと思い出すと省吾は急に立ち止まった。
「そこ。秀美さんと入りたいんだけど」
 ぶっきら棒に顎でしゃくったのは黒い建物。
 洒落たマンションにも見えるラブホテルだ。
 秀美はその入り口をまじまじと見てから、省吾を見る。
「断れないよね?俺、浮気の現場見ちゃったんだもん」
「それは」
「言い訳なら中で聞いてあげるよ。それとも、光輝に言っちゃおうかな?じゃなくちゃ、俺のオヤジ。光輝のお父さんに伝わるのはすぐだよね?」
 省吾は無表情で秀美を見下ろす。
 変貌とはまさにこのこと。
 痴漢行為を謝った時でもなく、ついさっきの電話の声でもない。
 声質こそ違っても、漂うのは初めの痴漢後の雰囲気そのものだ。
 痴漢のことを咎められないようにと先手を打ったつもりなのか。
 今、自分はどんな顔で息子の友人を見ているのだろう。 見つめる先の瞳が揺れた気がした。省吾の肩が心持ち上がり、唇の合わせ目が解けていく。
 秀美はそれを止めるように早口で告げた。
「うん。入ろう」
「え?」
 省吾は信じられないという顔を突き出した。
「それで黙っていてくれるなら、私はいいよ。その代り、私の話を聞いて」
 省吾からの返事がない。
 あからさまな戸惑いを浮かべた時点で無表情は崩れている。
 いつもの、見たことがある省吾だ。
 脅しとしか取れない誘い方をしておいてどうして今さら……とは思わない。
 省吾が大きく息を吐いて、嘘だよ、ごめん、と言いそうな気配を感じ取ったから、秀美はその先を遮るように同意を示したのだ。
 ただ、接点が欲しかったから。


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