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罪深き義母のよがり啼き 30

 見ず知らずの者でも、過去の客でもなかった。
 もちろん行為は許すべきことではない。でも、なにか理由があるはず。
 その理由を訊いてみたい気もするが、光輝のように自分の中の「女」への感情である可能性がゼロではないとも考える。あくまで「友達に出来たお義母さん」と言う響きを持つ女性への好奇心で満ちた想いとして。その想いに拍車をかけたのは近藤との現場を見られたことだとも思っている。
 邪さがつい加味されて痴漢という行為をしてしまっただけ。
 卑劣な行為を途中で止めて、わざわざ謝罪の言葉を聞かせたということは反省してくれたのだ。
 もうしないとまで言ってきた。
 光輝の友達であるし、妙にこじらせて光輝に気を使わせたくないということもあって、秀美は忘れることにした。

 仕事を終えて鶏肉を買った。家に帰り、ニンニク醤油に漬け込む。
 家族に対して警戒などと言う言葉を使いたくはないが、省吾とのこととは別に、その日の帰宅後から光輝の出方に心を配る気ではあった。
 それなのに光輝が帰ったのは幸作よりも遅く、秀美には分からないほどの時間だった。
 好きだと言ってくれたから揚げなのに。
 翌朝、冷蔵庫の中にそのままのから揚げを見て少しがっかりした。
 起きてきた光輝は席に着きながら言う。
「ごめん。昨日誘われたら遅くなっちゃって。旨そうだったけど、食い過ぎちゃってから揚げ食べられなかった」
「ううん。いいよ、全然。また作るね」
 秀美は気にしていないように二度小さく首を振ったが、女性ではないかとにわかに思った。
 あれほど帰宅の遅いことを心配して、思わせぶりな態度まで仕掛けてきたくせに他の女性を選んだ。
 そんな風に考える自分はひどく浅ましいと思う。夫の息子だ。今までなら、彼女が出来たと喜んだはず。だが、今はどうだろう。光輝の顔を見ながら得たのは、チリチリと胸の奥が焼ける感覚だ。後をついて光輝の抱擁を、口づけを思い出しそうにまでなる。逃げ惑う舌を追いかけ回す舌から落とされた唾液の味まで。一心に自分を貫いた柳沢ではなく。

「ふー」
 秀美はホームに滑り込んでくる電車を見ながら頬を膨らませるほどの息を吐いた。
 いささか調子に乗り過ぎだ。
 柳沢に熱い言葉を浴びせられて、想いなどないくせに有頂天になっていたのかも。
 近藤と再会してその頃の焦がすほどの恋心を思い出しただけ。
 光輝があの晩だけ強く求めたのは、逝った後のフェロモンか何かを自分から感じ取ったから。男根を握らせたのだって、本当にふざけただけだった。
 自分は何をしているのか。なにを求めている?
 幸作だけを想えばいい。
 それが一番の幸せ。家族の幸せ。
 秀美はいま一度心の中で唱えて電車に乗り込んだ。別のことで心を覆いたくて、ぶら下がる中吊りに意識して目を走らせた。

 それから二週間。表面的には何も起こらない日々が続いた。
 異常な執着を今さら示すかと思われた近藤からは連絡がない。あっては困る。これ以上かき回されたくない。
 再会を迫る電話の時に感じた通りに、せっかく手に入れた平穏が崩れつつあるのだから。
 秀美の心を落ち着かない状況に追い込んだのは柳沢からの電話だ。
 三人での行為の五日後だった。
「会えない?会いたい。二人で」
 封印を解かれた躰は現金なもの。耳元で声を聞くと、あの時の熱い言葉と身に抉り込む男根を思い出してしまう。
 膣道が引き攣れを起こして、女の場所の存在を露骨に教えた。まるで指を誘うように。
 その直後、思いがけないことが起きた。光輝との抱擁、口づけを立て続けに思い出したのだ。
 下腹部がキュッと締まり、息が上がりそうになる。掴まれた指の感触が一本一本ありありと乳房に蘇る。
 どうして?
 あの時、必死に逃げたのは……。
 秀美は携帯を押し当てたまま誰もいないリビングで首を振り、柳沢には二人では会えませんを押し通した。
 届きはしないが、深いため息の気配を携帯の向こうに感じた。
 時刻は六時。幸作もいるオフィスからかけているのかと思うとその神経を疑いたくもなった。友人の妻に……。そうさせたのは自分だ。
 だからと言って、柳沢の想いに応えることはできない。
 切るにも切れずに黙っていると、柳沢はまるで苦渋の決断のような声を聴かせた。
「だったら……また三人でする?」
「はい」
 秀美にはそれしか言えなかった。



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