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罪深き義母のよがり啼き 26

 トイレの水が流れる音がした。幸作だ。
 壁一枚の向こうはトイレ。
 秀美は弾かれたように身を離そうとした。咄嗟に光輝の奥のドアに目が行く。閉まっている。
 光輝は追いかけるように力を込めたが、すぐに両手を下ろした。
 幸作が三歩先のこちらに来るかもしれない。聞かれても言いようにと秀美はなるべくハッキリと話した。
「シャワーで済ませたの?」
「うん……明日はいるよね?」
「仕事だけど、ちゃんといるよ。今日は本当にごめんね」
 ううん、と光輝は首を振ってあどけなく微笑んだ。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい」
 光輝がドアを開けると小さな笑い声が流れ込んできた。幸作がテレビを付けたようだ。数秒の間を置いて光輝の「お帰り」も。
 ただいまと言ったはずの幸作の声は聞こえない。
 秀美はドアを開けたまま洗面台に向き合って、鏡の中の自分を見つめた。
 自分はなにをしているのかと問いただす。
 夫の目の前で違う男性に抱かれて逝った。
 納得してしたこと。夫もそれで満足した。嬉しい。
 それなのに、光輝に抱きしめられて安心した。そう。安心した。
 それでもいいんだよと言われたようで落ち着きを取り戻した。帰る場所はここだと捉まえていてくれる。
 どこかでまだ心が浮付いていた証拠だ。

 どうだった?と感想を訊くでもなく、帰り道での幸作との会話は光輝を交えての旅行のことだった。
 またと言われるのか。それとも、その事実だけでもう柳沢なしでも出来るのか。
 秀美は、いつまで一緒に行ってくれるか分からないから、ちょっと贅沢して離れがある旅館とかは?と応えながら、そんな想いに囚われていた。
 男の傷は男で癒す。決して傷ではないがそんな言葉があったことを思い出した。
 そう言えば、仕事から帰ると近藤は必ず抱きしめてくれた。他の男たちに塗れた躰を抱きしめて、何度もキスしてくれた。洗口剤の味が消えるまで。
 それがあったから、やってこれたのだ。
 どうして今、そんなことを懐かしむのだろう。
 幸作を肝心の方に挿れることが出来はしなかったが、口では出来た。幸作の男を見ることが出来た。
 効果が確かめられたのだから、それで十分なはず。
 幸作が悦んでくれればいい。
 そう思えるのに、どうしてこんなに苦しいの?どうしてこれほどに泣きたいの?

 廊下に気配を感じた。
 秀美はすぐさまクレンジングを手に取って下を向いた。
「もう溜まるかな?」
 幸作が横に立つ。Yシャツを脱ぎ始めたようだ。
「うん、平気じゃない」
 秀美は顔を擦りながら応えた。 幸作に今の自分を見られたくない。
 それなのに、幸作は秀美の突き出す形のヒップをポンポンと叩いた。
「一緒に入ろうか?」
「えー、いいよ。いい年して恥ずかしいでしょ。光輝君に合わせる顔だってないよ」
「どうしてさ。ホテルではさすがに柳沢がいて入れなかったから。それに……さ……」
 顔を上げて、口ごもる幸作を思わず見た。
「触りたいの……分かるだろ?」
 パッと心が明るくなった。
「じゃあ、待ってて。顔洗ったら、着替え持って来るから」
「うん」
 秀美は顔を流してタオルで押さえた。
 幸作が浴室の扉を開ける音を立てる頃には階段を上っていた。
 そこでまた驚かされた。
 入ろうとした部屋の前で光輝が立っている。
「やだ、どうしたの?あ、トイレ?」
 階段を下りるのかと思い、秀美が少しばかり左によると、光輝は秀美を挟んで両手を壁に伸ばした。
 頭の左右に手をつかれて、秀美は首を竦める。
 怯えを孕んだ瞳に光輝の顔が素早く迫った。


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