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第三章 群青の支配 3

 生々しく蘇る。熱い体温も肌の感触も。あんな風に男性器を触ったのは初めて。
 私は、言われた通りに全てをした。ぶら下がる睾丸の裏に輪をセットしてから、ステンレスの男性器型の筒に亀頭を入れてそれらを固定した。睾丸が潰されて痛くないのかと思いながら、陰毛の真下辺りにある固定部分にロックをかけた。
「これは鍵。麗香さんが持っていて。絶対に失くさないように首から下げておくんだよ。俺は、麗香さんに管理されるんだから。俺は、麗香さんのモノ。ネックレスは俺からのプレゼントだよ。外したらダメ。約束だよ、絶対」
 隆一君は、そのために作ったらしいネックレスを私の首に着けてくれた。
 
 隆一君と別れてから、その先の鍵を何度触っただろう。冷たい鉄のはずなのに、指先は隈なく触れた男性器の感触を思い出す。
 隆一君も思い出しているのかな。ううん、思い出すもなにも不自由さを感じているのだから、常に私を想っているのかも。
 そう考えてしまうと、頬が緩む。慌てて周りの気配を確認して、顔を整えた。貞明さんにネックレスのことで何かを言われたら、朱美を出そう、朱美とお揃いで買ったの、と応えよう考えていた。けれども、そんなことは杞憂だった。
 貞明さんは、ネックレスに気が付かなかった。
「っと」
 トーストをセットするのを忘れていた。食パンを四枚並べてスイッチを押す。
 早く明日が来ないかな。
 オレンジを切りながら思ったことは、二人を見送っても収まらない。それどころか、自由になった分、歯止めが効かないほどの熱量になっていた。
 その熱を生むのは、女の場所。貞明さんと最後にしたのは、貞明さんの三十八歳の誕生日。旅行先で。と言うことは、四年はしていない。
 そんなことを気にしたことが無かった。毎日、同じベッドで貞明さんの体温を感じるだけで満足していたから。
 それなのに、今はどうだろう。指がショーツの中に落ちる。どうしてしてくれなかったの、などという恨み節すら出てこない。
「ああっ……はああっ」
 ソファーに身を任せてただ指を動かした。硬くなっていくクリトリスを上下に擦って、秘めた口を指で塞ぐ。息苦しさの果ての高みを何度も繰り返した。つま先が切れそうなほどに反って、開いた太腿の痙攣が治まらない。指を包む収縮がクリトリスを擦る指の動きを加速させた。
 気持ちいい。気持ちいい。もっと……もっと……。
 斜め上の掛け時計の針が重なっていることで、十二時を確認した。
 十二時……四時間も。ハッとして、身を起こした。
「あっ」
 失禁したのかと思った。足の付け根がぬめるほどの愛液を初めて感じた。穿いていたスカートまで愛液でヌルヌルと濡れている。額には汗をかき、見れば両手の指が完全にふやけていた。
 ここまで……。
 自分に驚いていた。
 脳裏にはまだ隆一君がいる。気を抜いたら、また時を忘れて堕ちてしまいそうなくらい。 
 手を洗ってトイレに入った。あまり使わないビデを押してみる。
 明日、何を着て行こう。
 そう考えて、ふと思った。私は、女王様。女王様としての私を隆一君は望んでいる。朱美の言葉をなぞれば、隆一君は満足してくれるのかな。
 
 貞明さんと光莉を見送って、メイクをする。少しアイラインを太くして、上に跳ねたらどうだろう。真っ赤なリップは似合わないから持っていない。代わりにダークレッドのリップの輪郭を際立たせる。
 少しきつめの印象を心がけた。
 着替えて、鏡の前で腰に手を当てて髪をかき上げる。
「いいじゃない」
 女王様と言う呼称にふさわしい。
 隆一君の携帯にもう少しで家を出ると伝えた。
 俺はもう着くよ。早く来て。
 返事を見てから、タクシーで隆一君の部屋へと向かった。
 
 入口でインターフォンを鳴らすと、返事がないままドアが開いた。記憶通りにエレベーターを昇って、再度インターフォンを押す。
 開いたドアの向こうに隆一君の照れくさそうな笑顔。彼は、一昨日と同じような格好をしている。
 通された部屋は一昨日と変わっていない。海の底みたいな場所。二人だけの隠れ家。
 ベッドの上になにかある。
 黒いエナメルのレオタードスーツ。SMプレイのあれだ。
「麗香さんに着て欲しくて、用意しちゃったよ」
 隆一君はジャケットを脱いだ。
「王道の格好。俺が着せてあげるよ」 
「い、いいわよ。そんなの」
「どうして?俺、我慢したよ。かなり不自由したんだよ。トイレは座る方しか入れないし。朝立ちだってものすごく痛かった……ご褒美は?飴と鞭を使い分けるのが、女王様だろ?」 

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