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第三章 群青の支配 1

 濡れていると言うべきか。つい今までの若い成功者としての風格とは打って変わっての、甘えたような怯えたような瞳。そこには嫌悪がない。あるのは完全な親愛。
 忘れていた。朱美は、女王様。颯太君は下僕。朱美の言うことなら、なんでも聞くシモベなの。
「俺にも着けてください。麗香さんが」
 え?
 隆一君が言っている相手は私だ。
 でもなにを?なにをつけているのかわからない。朱美が見せた物はネックレス。それ以上の何かはわからなかったし。
「いいけど……なにを?」
「ついて来ればわかりますよ」
「え?でも……」
 当然の戸惑い。すると朱美はネックレスを襟の中に戻しつつ身を寄せた。
「大丈夫よ。時間は守ってくれるから。二人きりで話してみたら?」
「でも……」
 私は、あらためて颯太君を見ていた。
 先程までの颯太君とは明らかに違う。落ち着いて見えた颯太君ではない。
「トイレ、大変だって言っていますよ」
 隆一君の一言で颯太君は、顔を真っ赤にした。視線をチラチラと私に動かすのは、朱美だけではなく、私にまで見られているからなのかな。
「へぇ……どんななの?」
 朱美は訊く。
 颯太君は、言いたげに口を開いたけれど言葉が出ないよう。
「そこから先は二人のお楽しみでしょ?二人にしか解からない関係なんだから……さ、行きましょう、麗香さん。付き合ってくれますよね」
 隆一君は私に言って立ち上がった。
 私は、頷いていた。

 朱美のためなどと言っていられない。私はどうしたのだろう。出逢ったばかりの男と一緒にタクシーに乗って。しかも、十七も……うんと年下の男。
 どこに向かうの?私はどこに……。
 隆一君は黙って窓の外を眺めている。こちらの緊張など気にならないのか。場を和ませる気がない様子に落胆するのはどうしてだろう。
 それなのに、鼓動は逸る。ドキドキドキドキと高鳴る心臓が躰を熱くする。

 タクシーが停まったのは真っ白いマンションの手前。
「どうぞ。商用可のマンションだから個人サロンも結構入っているんですよ。エステにネイルサロン。だから、入ったって怪しまれない。一人でも来やすいでしょ?」
 入口を鍵で開けて、マンション内に促す。
 私は、開いた自動ドアを跨いで隆一君の後に続いた。
 部屋は三階。
「住んでいるの?」
「住んでもいいけど」
「住んでもいいって……住んでないの?」
「住んではいない……俺、実家暮らしだもん」
 実家と聞かされて、母親はいくつなのだろうとつい考えた。
 黒い扉の前に立って、緊張が走る。案内された部屋を見て、怯んだ。
 青い世界。壁、天井が美しい群青色。大きな窓を隠してあるであろうカーテンまで深い青。十畳ほどあるその部屋の隅に黒いカバーがかかったダブルベッドが置いてある。その上には、別の青い世界。海なのか、空なのか、それとももっと違うモノなのか、わからない大きな青い絵が飾ってある。
「住んでないのに、ベッドはあるのね。ベッドだけ」
「女と寝る用だよ」
「彼女いるの?いるわよね、モテそう」
「今はいない。麗香さんがなってよ」
「な……なるわけないでしょ。それよりも、さっきのなぁに?朱美は何をつけたの」
「なんだよ、せっかちだね。もっとお互いを知り合わないとと思ったのに」
 隆一君は、隅の壁を開けた。と見えたのは、扉。壁と同じ色だから気に留めなかったけれど、ウォークインクローゼットになっている。
 でも、中身は衣服ではないよう。隆一君はその中に入った。
 私は、部屋の中をいま一度眺めた。なにもないかと錯覚させられたけれど、奥にはキッチンがある。
 他には、と深海の底のような雰囲気の部屋を探ろうと目を凝らすと隆一君の声がした。
「麗香さんのご主人って医者なんでしょ?」
「そ、そうだけど。朱美に聞いたの?」
「颯太……」
 隆一君は、銀色の小さなオブジェのようなものを持って近づいてくる。
「なに、それ」
「俺の秘密の場所を好きに出来る道具だよ。でも、大事な条件。また麗香さんに逢わないと。逢えないと俺、死んじゃうから」
 見せられたのは、ステンレスの筒。これだけでは、わからない。でも、隆一君の言葉ですぐに悟った。男性器に着けるもの。なんとなくは、聞いたことがある。これは、貞操帯と言われるもの。
 

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