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第二章 未知の世界 5

 若い彼に動きそうな視線を無理して朱美に向けた。朱美はいつにも増して艶やかだ。
「ごめんね。お待たせ」
 言ってから気が付いた。もう一人男性がいる。こちらも若い。
 けれども、この彼よりは上であることは確実。
 二人とも似たような服装ではある。ジャケットに中はシャツで下はチノパンだろうか。違うのはそれぞれの色だけ。ジャケットは紺とグレー。紺は、幼い彼の方。学生の制服のように見えなくもない。
「ううん。大丈夫、時間通り……自己紹介は、お店に入ってからにしようか。すぐそこだから。そこの十七階」  
「うん」
 私は、二人の男性の顔をまともに見ないまま軽く会釈をした。二人も頭を下げる。
 若い……けれども、きちんとした社会人と言う雰囲気を一瞬で悟った。
「こっち。お洒落なフレンチのお店。颯太君が予約してくれたの。おススメなのよ」
 朱美が歩き出すから、私も倣う。
 颯太君……はどちらなのだろう。なんて思っていると、朱美は歩きながら顔を寄せた。
「二人はね、起業家なのよ」
「起業家?」
「うーん……んふっ。実は良く分からないけれど、IT系」
「IT?」
 愚かなほどに朱美の言葉を繰り返す。
「広告ですよ……メインは広告」  
 後ろから声がした。 
「広告?」
 チラッと振り返れば、声の主は幼くない方の彼。
「はい。軽いものなら色々しますけど、メインは広告のデザインと企画です。今のところは……ですけど」
「あ、麗香、こっちよ。エレベーター」  

 時間だからか、エレベーター前は人だかりだ。
 どんな風に見られているのだろう、私たち。
 若いツバメ……なんて死語よね。
「混んでるね。人気のお店なのね」
 周りを探るついでに彼ら二人を見る。エレベーターが開いたから、乗り込もうとすると幼い彼が胸元を探った。
「颯太、先に……すみません」
 彼は私たちに一礼をして、エレベーターの列から逸れた。
 颯太……こちらの彼が颯太。と言うことは、朱美の相手。
 すると彼が……。
 にわかに湧いた感情を振り払って、増えていく数字を眺めた。
 エレベーターから解き放たれると、颯太君は率先して店に向かった。案内されたのは、大きな窓がある個室。青い空が展望できる。
「軽くシャンパンでいいですか?麗香さんは、お酒は?」
 席に腰を下ろすと颯太君は朱美、私と順に見た。
「そうね。それでいいわよね」
「うん」
 朱美の言葉に私は頷いた。
「すみません。午後の打ち合わせのことで」
 幼い彼が慌てたように現れた。
「すみません、本当に失礼しました」
 頭を幾度も下げる。
「お仕事……忙しいの?」
「まぁ……まぁまぁです。はったりかますために都内に事務所を移したんで。場所的にはちょっと動いただけなんですけど、県名が変わったというか……そんなので信用も変わるんですよ。国は地方移転を支援しているくせに」
 応えたのは颯太君だ。
「ふーん」
 としか言えない。けれど、予想外だ。
 一緒に食事をしていて、嫌な感じがしない。
 幼い方の彼は、岸川隆一と名乗った。
 颯太君の上司。もっと言えば、隆一君が代表取締役だという。
 世間でもてはやされているIT起業家を紹介されるとは思いもよらなかった。
 幼く見えるのは童顔のせいで、年齢は二十九歳と言う。独身。それは颯太君もだけど。
 若い男のそんな情報を玩味しながら記憶していく自分に驚いたけれど、私は目の前に座る若い男から目を離せなかった。
 この雰囲気だって悪くない。余裕ある若い男性が、年上の女性を相手する、なんてことが知らない間に流行っているのかもれない。

 最後のコーヒーが運ばれてきた。ミルクを入れてかき回していると隣に座る朱美が言った。
「ねぇ、ちゃんと着けてる?」
 見ると、朱美は胸元からネックレスを出してユラユラとさせていた。
「着けてるよ……朱美さんの命令でしょ」
 颯太君を見て、胸の鼓動に意識が傾いた。
 一気に淫らな空気が満ちてきたのは、颯太君の目つきのせいだ。  
 
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