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第二章 未知の世界 4

 女王……様?
 無縁な言葉のはずなのに、胸がざわめいた。
 理由が分からない。
 けれども、あの上島さんが関わるなら……違う。関わるからこそ、私が朱美のそばにいないと。朱美には悪いけれど、上島さんのことは信用できない。長嶋さんと金子さんの印象だって、良くないみたいだし。私の勘違いではない。きっとない。
 その想いは、朱美とミュージカル鑑賞の約束をしてからも、家に帰って夕飯の支度をしてからも変わらなかった。

 発端は、上島さんとのお茶だったという。
 上島さんに誰にも言えない相談事があると持ちかけられたそうだ。家庭内のことで。そのために呼び出されたカフェで若い男性に声をかけられたのだ。
 上島さんの御嬢さんの元家庭教師と紹介された男性は、カフェで友人を待っていたという。だったらと一緒にお茶をすることになって、後から来た友人もそれに加わったそう。
 その後から来た彼と成り行きで連絡先を交換して、と朱美は言っていた。
 成り行きで?朱美が?それほどに浅はかなはずはない。合点がいかない。
「そんな風に見えなかったのよ。でも、颯太(そうた)……颯太って彼ね……颯太君って可愛いの」 
 コーヒーカップに口を付ける寸前に笑みを漏らした朱美の顔にゾッとした。
 朱美が浮気。
 その片棒を担ぐ気などさらさらない。ましてや、自分が男と、うんと若い男となんて。朱美はどうかしている。きっと、上島さんにとんでもないことに巻き込まれたのよ。
 私は、朱美と朱美の彼、そして、彼が連れてくる友人の四人でランチをすることになった。
 どうして四人で、など不満を漏らしていられない。朱美をきちんと元に戻してあげないと。上島さんから引き離さないと。そのためにはまず従って、彼らを知るしかない。
 
 貞明さんを想うと、戸惑いは生まれた。朱美を、既婚者をたぶらかす若い男なんてきっととんでもない人間たち。
 見ず知らずの低俗な男に会うのは、朱美のためなの。ごめんなさい。
 心の中で貞明さんに幾度も謝りながら、貞明さんと光莉を見送って、外出の用意をする。
 若さへ称賛を求めるのは老化の証拠と婦人雑誌に描かれていた。求めるべきことは、若さではなく美しさと自信への称賛だと。
 それでも、求めるでしょう?
 家を出る前に、いま一度服装と顔映りの確認をしてから玄関のドアを開けた。
 緊張した。朱美が一緒だから大丈夫だと思えても、鼓動の速まりは抑えられない。それに、朱美のためと思っても心の片隅に好奇心もあった。朱美が嘘でも夢中になった若い男を見てみたかった。上島さんと二人だけの秘密の遊びに私が入り込む嬉しさもあったけど、なにより……
 私の奴隷になりたいと願う男も見てみたかった。
 朱美は妙なやり方に心を奪われているよう。自分が主導権を握って、その若い男を好きに操るみたいな。声を潜めて淫らな言葉を使って朱美は私に説明した。
 そんなことがそれほど楽しいのだろうか。痛みや我慢を強いる行為が。でも、その話を聞いている時に不思議な感覚に襲われた。

 待ち合わせの駅の改札に向かうと朱美が見えた。その横に若い男性。男性と言うよりも少年。
 息子と言ってもおかしくないほどのあどけない少年が雑踏の中の私をじっと捉えた。まるで、待ち人が私であると見分けられたかのように。
 朱美が、笑顔で手を振る。
 私もつられて満面の笑みを心に籠めて微笑んだ。
 彼に見られていることを十二分に意識していた。




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