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第二章 未知の世界 3

 お料理はおいしい。でもどうしてだろう。いつかみたい。
 ああ、もう。この場所はつまらない。
 朱美と御嬢さんと光莉の四人でミュージカルに行かないかと誘おうとしていたのに。
 朱美は、上島さんと向かいに座る立花さんとで盛り上がっている。
 どうして? 私がなにかした?
 家に帰ってメールでもしてみようかな。
 私は、朱美が会計を済ませるまでそんなことばかりを考えていた。
 
「じゃあ、また来月。なにか希望があったら、言ってくださいね。遠慮はなしですよ」
 いつもは私が朱美の横にいる。なのに、今日は上島さんと笑い合ってばかりの朱美。
 またつまらない付き合いだけになってしまうのかな……。せっかく……せっかくなのに……。
「途中まで一緒に」
 そう誘ってくれた金子さんと長嶋さんとの三人で改札に向かった。
「なんかさ、上島さん、雰囲気変わったよね」
「え?」
 長嶋さんの言葉に驚いた。
「うまく言えないけど……」
「ですよね。私も思ったわ。周防(すおう)さんに取り入っているような……周防さんも周防さんですけど……周防さんって」
 朱美が何?
 改札が見えた。だけど、このまま帰れない。
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと寄りたいところを思い出したから」
 私は立ち止まって二人に言っていた。二人の朱美への評価や想いも聞きたいけれど、二人よりも朱美。どうしてなのか、直接聞きたい。私と朱美の仲だもの。偶々ならそれでいい。なにもないとは……思うけど……。
「あ、ううん。またね。来月」
 長嶋さんは可愛らしい笑顔で手を振る。 
 私も二人に手を振って、来た方向と逆に歩いた。
 今すぐ電話をしてもいいけれど、もしかしたら上島さんといるかもしれない。
 どうしよう。だったら悔しい。でも、もしかしたら私を選んでくれるかもしれない。
 迷う気持ちとは裏腹に足取りは真っ直ぐ進む。気が付けばデパートの婦人服売り場にいた。
 場所は違うけれど、今着ている服のお店。また季節が一つ進んだ商品が並んでいる。少しだけ気分が上向いた。
 数歩入っただけで、目敏い店員が近づいてきた。
「いつもありがとうございます。お似合いですよ。そちらのブラウスはうちでもすぐに売れてしまった商品で」
「ありがとう。すごく着心地が良くて気に入っているの」
 今日おろした服。今日のために。似合っている、は朱美に一番言って欲しかった。朱美なら、きっと今日おろしたことに気が付いたはずだから。
「なにか、お探しですか?お手伝いしても構いませんでしょうか?」
「そうね……まずは、見せて欲しいわ」
 私は、背の高いラックに近づいた。長嶋さんはワンピースをご主人に買ってもらったと言っていた。
 私もたまには貞明さんと一緒にお買い物をしようかな。そう言えば、お互いの服を見立てあうことなんてもうずっとしていない。せっかくだから、貞明さんの服も見てみようかな。プレゼントしたらきっと喜んでくれるもの。

 ワンピースのかかったハンガーに触れると、いらっしゃいませ、と店員の声。
「あー、いたいた。やーぱりここだ」
 突然の華やかな声に驚いて振り向いた。
 朱美。満面の笑みを浮かべて朱美が近づいてきた。
「今日の服もここでしょ?麗香、似合ってるなって思ったの。ここのブランドは麗香のためにあるようなものだもんね」 
 あ……嬉しい。
 言われた内容もだけれど、朱美の笑顔も。みんなの前での澄ました顔ではなくて、私だけが知っている本当の朱美。
「なにか買うの?」
「あ、ううん。ちょっと見ただけ……朱美は?」
「私は、麗香を探してここに来、た、の。改札の前で長嶋さんたちに逢って、訊いたら別れたって言うから、もしかしてって。急いで追いかけたつもりなんだけど」
「まだ改札にいたんだ、あの二人」
 私たちは、示し合わせたように店を出て歩きながら話していた。
「ごめんね、今日はあんまり話が出来なくて」
「あ、ううん」
 前触れもなく確信を突かれて、動揺した。
「上島さん、悪い人じゃないのよ。きっと、麗香も合うと思う」
「う……ん」
 聞きたくない。たとえそうであっても、今は聞きたくない。そんな気分じゃない。
「あ、ねぇ、少しお茶する?お腹はいっぱいだけど、立ち話もあれだし。朱美と観たいミュージカルがあるの。娘たちも一緒に。都合がいい日にち聞きたいな」
「あ…うん、いいけど……それよりも聞いて欲しいことがあるの。麗香には言っておきたいの」
「なーにぃ。あらたまって」
 からかい半分で探るようにした顔を近づけると、朱美はさりげなく周りに目を配ってから、口に右手を寄せて囁いた。
「私ね、上島さんに誘われて……可愛いボーイフレンドが出来たの」
 え?
 耳を疑った。
 目を見開く私にさらに朱美は耳打ちした。
「麗香、女王様に興味ない?」

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