FC2ブログ

archive: 2015年02月  1/3

〈失墜の堕天使・典子の章 6〉

No image

「見たの?今の」自信無さ気に私を見る達也の声は掠れていた。反して私の声は自分で驚くほどに透き通っていた。「うん。良かったよ。すごく興奮した」貴島に言われたからじゃない。言いたかった。労いたかった。彼の仕事だから。早速、抜こうとして、達也の乳首に刺さる針に触れた。「んぐっ」達也はビクッと胸の筋肉を締めて、奥歯を噛んだような声を洩らした。「あ、ごめん」「いいよ……気持ちいい……典子さんだから」私は、目をト...

  •  closed
  •  closed

〈失墜の堕天使・典子の章 7〉

No image

『典子……典子の許容範囲を計り損ねた……ごめん』達也から奪うようにして私をタクシーに押し込んでから、釜谷さんは私の肩を抱きながら、苦しそうに言った。首を絞められたことを心配してではない。とっくに芽生えていた想いを自覚してしまったことが生む苦しさを危ぶんでだ。恋をしている……と。『どこかで飲もうか?』優しさしかない言葉に首を振った。いつもの場所で下ろされて、家までを歩く。私が帰る場所はここ。絶対にここ。主...

  •  closed
  •  closed

〈失墜の堕天使・典子の章 8〉

No image

「だいたいの場所は訊いたんだけどなぁ。この通りを左って」エコバックを左右の手に下げる主人と並んで歩いた。中沢さん、佳奈子夫婦の家に向かうために。片方にはお祝いとしてのベビー服と布絵本が入った紙袋。家を出る時は雨が降っていたから、濡れないようにとそうしてきた。もう片方には、駅ビルで買ったローストビーフやサラダとお惣菜類が入っている。私と主人を引き合わせてくれた中沢さんと佳奈子は去年の五月に結婚をした...

  •  closed
  •  closed

〈失墜の堕天使・典子の章 9〉

No image

中沢さんは紺のポロシャツにベージュの七分パンツを穿いていた。バーベキューの時もそんな服装を見たことがあるし、パンツこそ違うけど主人の出勤スタイルもそんな感じだ。けれども、この時は若い父親の休日ルックと言う言葉が頭の中で踊っていた。「こっちだよ。雨降ってたのに電車で悪かったな。ここまではすぐに分かっただろ?」「分かったよ。いい場所だな」「中に公園があって、スポーツジムやら託児所もある。反対側の奥にま...

  •  closed
  •  closed

〈失墜の堕天使・典子の章 10〉

No image

「あっ」思わず手が出た。女性の胸の中にいる赤ちゃんの手から落ちたタオルを拾って女性に渡していた。「ありがとうございます」女性は笑顔で頭を下げて、反対側へと歩いていく。佳奈子の赤ちゃんを見てから、やたら乳幼児に目が行くようになった。正確には、主人が赤ちゃんを抱いた姿を見てからだ。抱いてみなよ、いいよ、中沢さんとの押し問答の末、『待って、待って。もう一回手を洗ってくる』と言って主人は手を洗いに行った。...

  •  closed
  •  closed

〈失墜の堕天使・典子の章 11〉

No image

主人は何も言わない。けれども、直後から機嫌が良さそうには感じた。きっと子供が出来たと聞いたのだ。そう言えば、私は彼女の名前も哲也さんとどこで出会ったかも聞いていない。それだけ、意外にも、動転していたということだ。その動転の最中、私は達也に連絡をしていた。一緒に……その返事をしていないから。「嬉しいです。連絡もらえて」電話口で聞いた声は弾んでいるようなのに、ひどく遠く感じた。その距離を繋ぎ止めたくて、...

  •  closed
  •  closed

〈失墜の堕天使・典子の章 終〉

No image

……あっ……。白い靄。ここは天国?それとも地獄?見えるのは……白い壁??ここ……どこ?どこだっけ……。ぼんやりとした意識が大きく新鮮な空気と血液を飲み込んだ。「達也……」口を動かすと意外にも声が出た。掠れた声。「たつ……や……」返事が無い。首を絞められて……気を失って……。私は躰を起こした。目が回ってまた倒れた。ぼんやり探るとソファーの上に置いたはずの達也の服が無い。達也は帰った。私が死んだと思って……白目を剥いて、舌...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 1〉

No image

土曜日。目が覚めてリビングに下りると、開けられた窓の間から陽菜の頭が見えた。その後ろには窓から陽菜を眺めている成美の姿。「なにしてるの?」「え?ああ、おはよ。朝顔の絵だよ。夏休み中に観察絵日記を三枚書かなくちゃいけないんだけど、まず一枚って。花咲いているから」「へぇ……」陽菜は、積んだ煉瓦の上に座ってスケッチをしていた。煉瓦は陽菜の夏休み中に花壇を作りたいと言って、成美が買ったもの。そう言えば、ツル...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 2〉

No image

予約をする時に念の為と目印を聞いておいた。七年の間で周りの雰囲気が変わっているかと心配になったからだ。聞いておいて良かった。場所をすっかり忘れていた。それでも、自分も店をしているから、オーナーも変わらずに店が存在することが嬉しく思えた。「ここ」「へぇ……」まるでライトアップされたように浮かび上がる白いビルを見上げて、成美は「高そう」と呟いた。それから、じっと一点を見つめた。「なに?」「ううん。お店の...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 3〉

No image

そっと握り返されたことに安心して、切り出した。「ここのオーナーが珠樹さんの友達で……プレオープンに誘ってくれたのは珠樹さんなんだ。ご主人が来れなくなったからって」「ご主人って、夜のお店……」「あ、そうだよ。聞いたの?」「うん……その、珠樹さんに」「おれの店の世話をしてくれたのも実はそうなんだ。すごい人。仕事もそうだけど、人も男として尊敬する。十二上なんだけど」成美は声を出さないで頷いた。「そんな大事な人...

  •  closed
  •  closed
現在の閲覧者数: