FC2ブログ

category: 終発の愛・健太  1/1

〈終発の愛・健太の章 1〉

No image

土曜日。目が覚めてリビングに下りると、開けられた窓の間から陽菜の頭が見えた。その後ろには窓から陽菜を眺めている成美の姿。「なにしてるの?」「え?ああ、おはよ。朝顔の絵だよ。夏休み中に観察絵日記を三枚書かなくちゃいけないんだけど、まず一枚って。花咲いているから」「へぇ……」陽菜は、積んだ煉瓦の上に座ってスケッチをしていた。煉瓦は陽菜の夏休み中に花壇を作りたいと言って、成美が買ったもの。そう言えば、ツル...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 2〉

No image

予約をする時に念の為と目印を聞いておいた。七年の間で周りの雰囲気が変わっているかと心配になったからだ。聞いておいて良かった。場所をすっかり忘れていた。それでも、自分も店をしているから、オーナーも変わらずに店が存在することが嬉しく思えた。「ここ」「へぇ……」まるでライトアップされたように浮かび上がる白いビルを見上げて、成美は「高そう」と呟いた。それから、じっと一点を見つめた。「なに?」「ううん。お店の...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 3〉

No image

そっと握り返されたことに安心して、切り出した。「ここのオーナーが珠樹さんの友達で……プレオープンに誘ってくれたのは珠樹さんなんだ。ご主人が来れなくなったからって」「ご主人って、夜のお店……」「あ、そうだよ。聞いたの?」「うん……その、珠樹さんに」「おれの店の世話をしてくれたのも実はそうなんだ。すごい人。仕事もそうだけど、人も男として尊敬する。十二上なんだけど」成美は声を出さないで頷いた。「そんな大事な人...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 4〉

No image

三杯ずつ飲んで店を出た。成美は店の中で泣いてしまったことを恥ずかしがっていたようだけど、女性店員は「またいらしてください」と言ってから丁寧に頭を下げて、おおらかな笑みと共に送り出してくれた。酔った?酔ってないよ。えー、もっと飲めばよかったのに。なんでよ。せっかく健ちゃんと外泊できるなら勿体無いでしょ。成美と手を繋ぎながら、ソンナ通りを歩く。どうせなら、綺麗なところがいいよなぁ。それと、アレが売って...

  •  closed
  •  closed

〈終発の愛・健太の章 終〉

No image

一年……正確には十か月が経った。車に乗り込もうとすると、真ん前に大きなトラックが止まった。引っ越し用のトラック。そこに停まったら出せないだろう。文句を言おうとすると、窓が下りて若い運転手に紙を示されながら訊かれた。「すみません。ここのお宅なんですけど、この道って左に抜けられますか?」「あ、いえ。トラックなら向こうからぐるっと回らないと無理です。一番奥の通り」「ありがとうございます」トラックは少しバッ...

  •  closed
  •  closed
現在の閲覧者数: